鳩とか。

なんの優勝経験のない僕だけれども、40年間生きてきて唯一人に誇れることといったら、鳩を踏みつけた経験があるということだろうな。

これはすごい経験だと思うんだ。
なぜならば、鳩というものは素早い生き物で、感性が鋭いからだ。通常そうした生き物は、人間が近づくとその気配を察知して空に向かって羽ばたいてしまいます。しかし、このときの鳩は何の抵抗もなく僕に踏まれたのだ。そして、僕に踏まれた後に鳩はそそくさと羽ばたいて空に飛んでいってしまった・・・。

人間には自己意識があるため、残念ながら世界から分断されています。私の意識の外には実在的な世界が在って、私はその世界を理解するものとして、世界から距離が置かれています。もちろん、分断されているからこそ、そこから体系的な世界像を作り上げて、世界を私にとって利用可能なものとして役立てることができます。そして、ある一部の人たちは、その内省力と集中力を利用して、分断以前を体感することができるようです。それは自分と他人が、自分と世界がまだ分断されていないような領域のことです。

・・・きっと僕は、知らず知らずのうちにその領域に潜り込んでしまったのだろうな。僕が世界であって、世界が僕だったんだ。だからこそ、鳩にとっては世界が接近してきたに過ぎなかったわけで、何の抵抗もなく世界に踏まれるしかなかったんだ。

ああよかった。優勝しなくても僕は世界であり、鳩を踏めるんだ。大丈夫でした。