アポリアは突然あらわれる。

アポリア(難問)というものは、なんの前触れも無く襲いかかってくるのです。

僕は。

今。

コンビニに行きました。


例の。

あの。

様々な値段の様々な商品を揃えており、客の自由意思によって購入可能な状態にある、あのコンビニに行ったのです。

僕はそのコンビニに行く途中、車を見かけました。
それは三軒隣のA氏の宅にいつも停っている車です。
その車は、今日も礼儀正しくA氏の駐車場に停めてあったのですが、ランプが礼儀正しくない。
車内灯がつけっぱなしなのだ。。。
僕は、「きっとA氏は車を降りたばかりで、きっとしばらくするとそのランプは消えるだろうな」と思い、コンビニに行きました。そして、ビールとミートソースと生ハムを買って帰路についたのですが、やはり車は礼儀正しくない。

A氏は、駐車場に車を停めたあと、ちょっとした作業をしたのだろう。車内で、明かりを必要とするちょっとした作業をする羽目になったのだ。そうして、A氏はついうっかりと、その車内灯を消し忘れてしまったのだ。だから、車はその礼儀正しさを失い、車内に誰も人がいないにもかかわらず、その明かりを灯すことになってしまったのだ。。。

ああ。

僕はどうすればいいのだろう?

・・・僕の中にある倫理観や道徳観は、「A氏に車内灯がつきっぱなしであることを伝えるのだ」と告げ知らせているが、この時間だ。。。もし、僕がA氏宅を訪れて、チャイムを押したら、A氏はきっとなにごとかと驚くだろう。その驚きの瞬間に、「ああ。このモノは私が車内灯を消し忘れたことを教えに来てくれた親切な男性なのだな」と思いを巡らせる可能性は、僕が三日後に結婚して幸福な家庭を築く可能性と同じほど低いのだ。。。たぶん、僕がその倫理観や道徳観に従ってチャイムを押したら、A氏は下種な泥棒か人さらいだと勘違いをして、警察を呼ぶのだろう。そうして、警察に変な職質をされて、僕はきっと「いやあの車のランプが礼儀正しくなくって、人のいない車内を照らし出しているからその存在は明け開けた場所で出会われるべき出会うのであるが、その出会いは礼儀正しくないので、A氏は明かりを消すべきであり、その消すという行為を忘れているのならば、僕がその行為を思い起こすよう「車内灯がついているのですよ」と告げ知らせるひつようがあるのだから・・・。」といい、警察は「わけのわからないことを言っている」と思うから、僕は見知らぬところに連れて行かれるのです。。。。

だから。

僕はA氏に車内灯がつきっぱなしであることを伝えることができない。。。

そもそも。

僕は三軒隣のA氏という人を知らない。。。

顔も見たことがない。。。

A氏の家の前にある駐車場にはいつも車が停っているが、その車をいつも運転しているであろうA氏という人を僕は知らないのだ。だがしかし、僕は先程から「A氏」と読んでいるのは、その家に「A」という名字の表札があり、僕はその表札を見て「ああ。ここはA氏とその一族の家なのだな」と思っただけなのです。。。

僕はA氏を知らず、また、類としてのA氏しか知らない。。。

僕は推論の中からこの家にはAという名字を冠する人間が住んでいると思い込んでいるだけなのだ。。。

ですから。

僕は。

この時間に架空のA氏に車内灯がついていることを伝えることは断念しました。。。

・・・きっと・・・この車はバッテリー切れになって、明日にはエンジンがかからなくなるかもしれない・・・そしてA氏は出勤することができず、あわてふためいて昨晩の車内でしてしまった“ちょっとした作業”のことを悔やむかもしれない。。。

・・・だがしかし、それがこのアポリアへの回答なのかもしれない。

「A氏の車は車内灯がつきっぱなしになっており、次に日の朝にはバッテリー切れになる可能性がある」というのがありのままの現実の姿なのだ。

そのありのままの現実をみず知らず他人の些細な恣意が水をさすというの不粋なことなのだ。

だから。

僕は今からスパゲティーを食べてビールを飲んで寝ることにします。。。