逆キューピー感。

速そうなヘルメットを被り速そうな自転車に乗った青年のような中年が、僕の前を通り過ぎて行く。

そして、彼の自転車にはペットボトルのお茶が装着されている。

こうした速そうな自転車というものは、たいていペットボトルを装着できるようになっているものだが、いったい彼はどのタイミングでこのお茶を口にするのだろうか。

もちろん。喉が乾いたタイミングでお茶を飲むのだろう。しかし、たいていの喉が乾いたタイミングで飲むものといえば、水かポカリスエット的なものと決まっている。

だがしかし、彼の自転車に装着されているものはお茶なのだ。

ということは、この青年のような中年は、喉が乾くほどの距離は移動しないのだろう。おそらく、そこそこの距離を移動して、そこそこの疲れを感じ、ひと息つこうとしたところでこのお茶を飲むのだ。なぜならば、お茶というものは水やポカリスエット的なものとは違って、ひと息ついてほっとするときに飲むものだからだ。彼はお茶を飲んでほっとするのだ。




駅前のSの老婆は自分の手の臭いを嗅いでいた。

ホームのMRの少年は、本当は中年なのだけど、電車の音に合わせてかけ声をかけていた。

電車の中ではMRの中年が僕の前に座った。しかし彼は青年だ。

中年のような僕はただただ眠い。

春なのだな。




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